認知行動ワークショップ担当のUです。
初めに、
ストレスからくる不眠にはいろいろの問題があることが分かってきました。まず風邪をひきやすくなります。これは免疫が落ちるからだそうです。そして怖いな、と思うことは、不眠から認知症にもなりやすくなるそうです。記憶は睡眠中に整理されるそうですが、その機能が落ちること。また認知症に関係あるアミロイドという脳内物質は睡眠中に掃除されるそうですが、その機能も落ちること。・・・ざっと、こういうことが影響していると言われています。ですから睡眠というのは極めて重要なのです。しかるに睡眠障害を引き起こさせ主な要因がストレスです。だから、問題はストレス、・・過剰なストレスが問題なのです。ですから適切なストレス対策はとても大事です。
そのストレスに対処する方法は3つあるかな、と思います。まず、1点目は、ストレスの元になっているものを断ち切ること。例えば、「嫌な上司がいる職場を辞める」 2点目は、気分転換を図ること。 例えば「休みに走る」「食べ歩きをする」など、・・そして3点目が…受け取り方を変えること。「認知行動療法」です。以下、この認知行動療法を中心にお話します。
認知行動療法とは、・・その1(そもそも認知行動療法とは)
「ラインが既読になって2日経っているのに返信がない」「何度電話しても向こうから掛かってこない」、「他人からミスを指摘される」、などということが気になり、・・イライラ,クヨクヨ、落ち込み、挙句の果てには怒りが湧いてくる。あるいはストレスを感じて過食することがある、・・例えこうした出来事があったとしても心穏やかでいるためにはどうしたらいいでしょうか あるいはそういう自分を変えていくにはどうしたらいいでしょうか
実は、そこには「認知の歪み」というものが関係しているのです。デメリットの多い考え方の癖をどう変えていけばいいか、・・科学的根拠に基づいて教えてくれるのが、「認知行動療法」なのです。
認知行動療法とは、・・その2(受け取りが気分を決める)
私たちの多くは自然科学の影響で、「原因があり、結果がある」、とそう思い込んでいます。しかし、認知行動療法はその論理を否定します。例えば、「ラインが既読なっているのに返信がない」、こういう状況の中で、Aさんは、「自分は無視されている」、とこう受け取りました。であれば、Aさんの気持ちは、落ち込みあるいは怒りとなるかもしれません。一方、Bさんは、「忙しく、今は返信する余裕がないのかもしれない」、とそう受け取りました。であれば、Bさんの気持ちは、特に落ち込むことなく、ほぼ平静でいれるでしょう。つまりこのように、「ラインが既読になっているのに返信がない」、といういわばネガティブな原因により、誰もがいゃな感情になるという直結した結果にはつながらないのです。
つまりこのように認知行動療法では、「気持ちは、出来事そのものではなく、出来事をどう受け取るか、その受け取り方によって決まる」、というのです。この考え方を論理建てし、確立したのはアメリカ人のアーロン・ベックという精神療法家です。彼は鬱病治療の専門家でした。彼は鬱病患者の中に、自分自身に対し・周りに対し・そして将来に対して悲観的・ネガティブな見方をする人が多いという特徴を発見しました。そして、この認知の修正・調整による治療を考えだしたのです。日本でも数あるメンタル療法の中で、厚労省はこの認知行動療法だけを保険診療可能としています。つまり、国が「お墨付き」を与えた治療法だということです。
認知行動療法とは、・・その3(自動思考とは)
認知行動療法では、先ほどご紹介した「受け取り」を認知と称します。あるいは、出来事に際しての「解釈」「考え」なども同じく認知といいます。その認知に対して、これは認知行動療法、独特の概念ですが、・・それらを「自動思考」とい言います。つまり、先ほどの例、「ラインが既読なっているのに返信がない」、こういう状況の中で、Aさんは、「自分は無視されている」、とこう受け取りました。・・この受け取りは、ラインの既読を確認した瞬間、ほとんで無意識レベルで、且つ、自動的にAさんの心に湧きあがってきた受け取り方なのです。自動思考という概念は、このように「瞬間」「無意識」「自動的に」という特徴をもっています。そしてこの自動思考はこの認知行動療法では決定的に重要な概念です。なぜなら、それが気持ちを作っている基とされているからです。
そして創始者、アーロン・ベックは、誰もが自動思考をするし、誰もがその自動思考に癖・パターンをもっていると言います。そして強弱はあるものの、その癖、パターンは約10個あると言います。
1)物事を黒白という二分法でみる癖 (全か無か)
2)明確な根拠がないのに、悪く解釈する癖(根拠のない推論)
3)何か気になることがあると、そればかりを気にする癖
(心のフイルター)
4)物事もマイナス面からみる癖(マイナス化思考)
5)自分はダメで、人はうまくやっていると人と比較し、自分を責める癖
(拡大解釈と過小評価)
6)何事も、「こうあるべき」、「こうしてならない」、と決めつける癖
(すべき思考)
7)自分にも人にも「ダメ人間」「負け犬」などと心の中で
レッテルを張る癖(レッテル貼り)
8)一つのことを、全てに当てはめてしまう癖(一般化)
9)問題や嫌なことの発生原因が自分にあるとし、
自分に責任を押し付ける癖(個人化)
10)感情的に決めつける癖(感情による決めつけ)
・・などがあります。
では、先ほどの例、「ラインが既読なっているのに返信がない」、こういう状況の中で、「自分は無視されている」、とこう受け取ったAさんは、どういう癖をもっているでしょうか。
1)明確な根拠がないのに、「無視された」、と解釈する癖がありそうです。
2)Aさんの頭には、「無視された」、・・そればかりを気にする癖も考えられます。
3)また、何事もマイナス面を重視しそうな感じもします。・・
4) また、「ラインは着たらすぐ返事すべき」というすべき思考も強いかもしれません。
もし、これらの推論当たっているなら、「ラインが既読で返事がない」、といういわば小さなストレスが、Aさんの中で、大きなストレスに増幅するでありましょう。つまり、ストレスはこの自動思考の癖により実態以上に増幅する、というように言えます。 そしてこれは体調が悪かったり、何か問題を抱えていたり、そうしたネガティブな状況の中では更に増幅しやすいと言われています。
つまり、「ストレスに強くなる」、ということは、偏った自動思考,歪んだ自動思考を積み重ねるのではなく、状況に見合った適応的思考をするということです。この例での状況は、ややネガティブな感じです。そういう中で、適応的思考とは、先ほどの例で言えば、「無視された可能性も0%ではないかもしれない。しかし、今は忙しいのかな」、程度に考えるということが状況に見合った受け取りになります。
また、「彼にも何か事情ができて余裕がないのかもしれない。ここは少し時間を置いてみよう。彼を除き多くの友人は既読で返事くれている。万が一、嫌われたからと言っても友達がいなくなるわけではない」などと幅広い、複数の解釈をすることです。・・・こうした幅広い、複数の解釈を持つことが、・・ストレスを増幅させないポイントです。
認知行動療法とは、・・その4(スキーマとは)
またそれに加えて、認知と称されるものには、自動思考よりもっと心の深い領域にあるとされるスキーマというものがあります。スキーマとはぴったりの日本語訳がなくて、信念、価値観、生き方のルール、アイデンティテイなど、・・あるいはまたその人の中で「普通」とか「当たり前」とされている概念です。‥そういう性格のものですから、日常、・ほとんど気づきません。しかし無意識層にありながらも、実は、・・常時、「持ち歩いている」という特徴があります。ですから、ある出来事があった時のみ顔をだす自動思考を、その都度、「チクリ」と刺す働きをするのです。だから、気分と行動の黒幕が、実はこのスキーマということになります。
例を挙げます。「自分は能力が低い」というスキーマをもっている人は、「上司から叱責された」というストレスが掛かると、その瞬間、「俺は何もやってもダメ」という自動思考が「スーツ」と心をよぎります。つまり、こういう形で、スキーマが自動思考に影響を与えているのです。・・・そうなれば、どうでしょうか、・・当然、・・気分は落ち込む、上司を避けるようになる、などという連鎖が起きるでしょう。・・・根っこにある「自分は能力が低い」というスキーマが、・・実は自動思考に影響を与えているのです。
スキーマの癖も、自動思考と同じくらいあります。しかし、それを単純化するなら、自分自身・世界・将来を、「何とかかなる、大丈夫」、と肯定的、ポジティブに見るか、・・あるいは「問題、多い」と否定的、ネガティブに見るか・・・・の2分法になります。それは、俗にいう「ネアカ」か「ネクラ」か、と云ってもいいでしょう。 ・・・どちらが正しいということはありません。しかし、どちらがストレスを増幅させるかといえば、後者、…否定的、ネガティブな思考の方でしょう。
認知行動療法とは、・・その5(スキーマの修正)
否定的・ネガティブな思考が、生きづらくしている あるいはストレスを増幅させている。ですから、ストレスを軽減させるためには、「自分のスキマーマを修正する」、あるいは、「変えてしまう」ということになります。
例えば、「時間は厳守すべき」というスキーマをもっている人が、
「すべき」ではなく「できる限り」という考えに「調整」する、
・・・そのことで大分楽になるはずです。勿論、癌を
手術するドクターなら「癌細胞は残らず完璧に取るべきです」
・・ここのすべきは譲れません。
しかし、家に帰ってきて玄関先で子供の靴が揃っていなかった。
・・ここはできる限り「揃える」でいいでしょうか。
また、「時間は厳守すベき」というスキーマは、それ自身は正しい価値観です。そういう価値観を持った人は「決められた5分前には集合場所にいる」、そういうことはいわば「当たり前」のことです。そうした社会のルールをきちんと守るので人からも信用があります。しかしこうした人は、時として時間を守れない人に対して厳しい態度を取ります。コロナの問題でマスクを着ける、着けないの問題も似ています。他の人に不寛容になりストレスが溜まります。時に怒りとなり暴発することもあります。ですから、どうして譲れない時間厳守と多少は遅れてもいい集合時間の区別をして「まぁいいか」、と調整できれば自分自身にストレスが溜まりにくくなります。
ストレスを増幅させないためにはこのように自動思考を調整すること、
そしてスキーマを調整・置き換えること、これらがポイントとなります。
皆さん、ストレスへの対応、・・「ガッテン」して頂けたでしょうか!(笑)